京の町屋を訪ねて

 京都にはまだまだ古い町家が数多く残っているが、その貴重な建物をそのまま生かして、洒落た喫茶店やレストラン、画廊や記念館、民芸品売り場など、古さと新しさを巧みに演出した店が今、京都観光の人気を集めている。
 即ち町家独特の糸屋格子の窓や吹き抜けの台所には井戸や『おくどさん』(ご飯などを炊く釜戸)。狭いながらも手入れの行き届いた坪庭。今こんな町家が脚光を浴びる背景には、古き良き時代への郷愁と、人々が物よりも心の豊かさへの希求とともに、現代人が求めてやまない『癒しの場』がそこにあるからであろう。

◆造り酒屋の記念館◆
 市内の中心部、堺町通り二条上る(北へ)にある銘酒・キンシ正宗『堀野記念館』は、創業当時(天明元年1781)の建物をそのまま今に守り続けている。この辺りにはいくつもの造り酒屋があったというが、それは酒造りには欠かせない名水が湧き出ていたからだ。
 京都御所の周辺には現在も、いくつかの『京の名水』が湧き出している。北側に位置する茶道・裏千家の『梅の井』。東側の梨木神社にある『染井』。そして南側に当たる堀野酒造の『桃の井』の三名水。ここの井戸からは今でも毎秒3トンの水が溢れ出している。館内には昔のままの道具類が展示されており、『京の造り酒屋と町家文化の博物館』として地ビールと地酒が2ショットで楽しめ、新しい京都の新名所となっている。
 中京区堺町通り二条上る。電話075-223-2072
営業時間11:00〜17:00(入館料300円)

◆ユーモアギャラリー・町家deほっ◆
 家の裏に出る通り抜けの部分をカフェ風に改造、お客様がゆっくりとくつろげる場にしている。この店の『売り』は周囲に展示されている数多くのイラスト。聞けば夫人の南久美子さんが描き続けて来たもので、中でも猫をモチーフにした数々のイラストはまさに傑作。なんでもご主人をモデルにしているそうだが、そのユーモア溢れる表情と作品に添えられたメッセージに思わずニヤリとしてしまう。そんな楽しいイラストに囲まれながら、ゆっくりとお茶を飲む忙中閑。癒し度満点の隠れスポットである。週末にはバーとして大人の世界に変わるというから、一度は寄ってみたいものである。
 open 11:00〜pm6:00
 交通…市バス・今出川大宮下車、南へ。電話075-451-0325

◆時代劇に登場する『あぶり餅屋』◆
 初めて来た時、どこかで見た風景だと思ったがすぐに分かった。今宮神社参道の石畳と両側の茶店の風景は、映画やテレビの時代劇に出て来るロケーションであった。『なるほど』しばらくたたづんでいると、目の前の風景が江戸時代に遡って行く。着飾った町衆や、深編み笠の武士たちが行き交う情景が鮮やかに浮かんで来るから楽しい。
 この向かい合った『一和』と『かざりや』は共に『あぶり餅』だけを商いする『お休み処』で、創業以来一千年の歴史があるという。二またに割いた細い竹串に小さな餅を刺して備長炭の火であぶり、白味噌と黒砂糖を合わせたタレをかけて食べる。一皿500円。
 『どうぞ、お入りやす』しきりに両側のお姐さんに誘われると一瞬どちらに入ろうかと戸惑ってしまうが、軒下の暖簾が揺れて、飾り気のない床几で食べる素朴な風味は、忘れかけていた日本の味を思い出す。 交通…市バス北大路通り・今宮神社前。

◆最大級の京町家 buson◆
 江戸時代の俳人・与謝蕪村の邸宅跡という。京都ならではの数々の美術品、伝統工芸品などを展示したギャラリーや観光スポットの紹介、お土産品売り場、喫茶室、そして清々しい坪庭など、雅やかな京文化の粋に触れることが出来る。
 これら京都の町家の特徴として、昔は間口の大きさで税金の金額が決まったことから、なるべく間口を狭く縦長にした家が多く、通称『うなぎの寝床』と言われていたが、この家も間口約4軒半(約9m)、奥行き27軒(約50m)で、面積は約150坪という京町家では最大級のもの。
 玄関を入ると店の間と前庭があり、その奥に本屋、そこから美しい中庭を見ながら廊下の先に離れ座敷、奥庭があり、そのどれもが和風庭園の粋を凝らしたもので必見の価値がある。
 交通…地下鉄烏丸線、阪急電鉄『四条駅』下車。南へ二筋目西入る。 営業日…土、日曜。午前11時〜午後6時。
 問合せ…電話075-361-8251 ☆必ず問い合わせてから行くといい。

◆墨絵の風景・田中長奈良漬店◆
 京都の中心街・烏丸四条あたり、近代的なビル群に挟まれ、まるでそこだけが取り残されたような『田中長奈良漬店』。古い町家が次々とビルに変わって行く現代、かたくなに近代化を拒んで来たという。昔ながらの低い瓦屋根と殺風景な虫窓、閉ざされたままの格子窓と古い暖簾。華やかな都会の風景とは対照的に、そのくすんだ白黒の色合いはまさに一幅の墨絵を見るよう。よくぞ残してくれたものだと思う。
 創業は寛政元年(1789)。都錦・味醂漬けは天下一品。中でもこの店の奈良漬けは京都人なら誰でもが推奨する逸品である。これはやはり200年余、試行錯誤を重ねて出来上がった伝統の味と言うべきか。
 店内にもなんの飾り気もない。だがこの古さこそが圧倒的な風格となっているから不思議。永久に残したい京町家の一つである。
 交通…地下鉄烏丸線、阪急電鉄『四条駅』下車。南へ一筋目西。
 電話…075-351-4520

◆京の銘菓・蕪村庵◆
 碁盤の目になっている京都の東西の通りを歌った『かぞえ歌』。その六角通りにあるのが六角堂で、境内には中央がくぼんだ六角形の石があり、京のほぼ真ん中に位置していることから『へそ石』と呼ばれて親しまれている。
 その六角堂の前にあるのが『蕪村庵』。古い都のたたずまいを残した町家風独特の雰囲気が、道行く人の郷愁を誘う。表にはなんの飾り気もなく商品の宣伝もない。白い暖簾をくぐると美しい坪庭と、畳一畳ほどの玄関の間には、初春らしい松が活けてある。京の銘菓商は商品もさることながら、店自体の雰囲気を風雅な空間として演出しているのには感心する。
 名前の通り与謝蕪村ゆかりの地に近く、また蕪村の句に寄せたせんべいやあられの風味は、忘れがたい京都の味といえよう。
 京都市中京区六角通り烏丸東 電話 075-213-7888
 交通…地下鉄烏丸線『御池駅』下車すぐ。

◆昔のままの四条京町家◆
 『夏は蒸し暑く、冬は底冷え』という京都独特の気候の中で、大きな町家では『風を入れる庭』『明かりをとる庭』など巧みに工夫してあるが、この町家は明治43年に建てられたごく一般的な庶民の住居。京都市では伝統産業振興館として永久に保存し、当時の暮らしを紹介している。
 その様式は、駒寄せ(表にある軒下の柵)。玄関の間(昔は玄関庭から中に入ることが出来るのは限られたお客様だけ)。走り庭(大屋根まで突き抜けで、忙しく走り回る)には井戸、流し、おくどさんがあり、一番奥が奥の間。そこから眺める唯一の裏庭は、どこの家庭でも同様、粋をこらしたものになっている。風呂は庭の片隅にあり、今では珍しい五右衛門風呂である。
 またこの町家では『華木サロン』として楽しい催しが開かれているから問い合わせてみるといい。 
 京都市下京区四条通西洞院東入る 電話075-213-0540
 交通…地下鉄、阪急とも四条駅下車、西へ徒歩5分。
市バス、四条西洞院下車。


◆おばんざい懐石・百足屋◆
 京の町家ならではの格子の奥に、通り庭やおくどさん、きれいに打ち水された石畳など、古い歴史のはぐくみが感じられる。これは京の風情とともに、京都の生活文化を生きた形で残したいと復元されたもので、それぞれの座敷には昔風の和の粋がこらしてある。
 即ち入り口土間には気楽な椅子席があり、工芸品やアンティークが展示され、奥の座敷には夏の風情の御簾や光天井のある蔵前の部屋。座敷蔵ではぼんぼりの明かりも揺れて、明治維新の密談が聞こえそう。明治初期の洋間をイメージした部屋もあり、ステンドガラスを透す日射しが優しい。ゆったりとおばんざいの懐石に舌鼓を打ちながら一献傾けていると、まるで江戸、明治の時代に遊ぶよう。昼食3.000円から、夕食5.000円から。
 京都市中京区新町通り錦上がる百足屋町。電話075-256-9393
交通…地下鉄、阪急ともに四条駅下車、西へ二筋目北へ。徒歩10分。市バス四条西洞院下車。


◆手作り雑貨の『あすいろ』◆
 めったに見られなくなった表の糸屋格子の、いかにも京都らしい風情に立ち止まる。この家は2004年に普通の住居の内部を改装し、手作りにこだわる雑貨やギャラリーとしてオープンしたもの。
 表に並ぶ小物類に誘われて店内に入ってみた。部屋いっぱいに置かれた陶磁器や織物、袋もの、ガラス細工、木工品、絵画やTシャツなど、その一つ一つに既製品にはない温もりを感ずるのは、素人の作家たちの採算を度外視した趣味のオリジナリテイだからであろう。壁にはそれらの委託販売のボックスもあり、奥座敷と二階は展示室に利用されている。 狭いながらも囲炉裏や坪庭も珍しく、『買うてもらわんでも、ゆっくりして行かはったら?』と、そんな言葉に甘えてどっかりと上がり込んでしまったが、なるほど、人と物との温もりに触れた楽しいひと時であった。
 京都市中京区衣棚通夷川下る 電話075-212-5045
 交通…地下鉄烏丸線・丸太町下車、西へ三筋目、南へ二筋目
市バス 京都府庁前下車 徒歩5分


◆小宿&かふぇ・布屋◆
 観光都市京都…近代的なホテルや旅館が多い中、『小さな京町家風の民宿』が今、観光客の人気を呼んでいる。これはかって、ホテルマンとして勤めていたオーナー布澤さんの夢であった。築120年を経た実家を改造、アルミサッシを外して木の窓枠に変え、古い材木も随所に取り入れ、あくまでも明治中期の様式にこだわった。
 温もりのある格子窓や玄関の暖簾。虫籠窓から差し込む柔らかな日射しや、四季の風が舞う小さな坪庭。あえてテレビも電話も置かないないこだわりが、かえって時の流れを忘れさせてくれるというもの。骨董の土鍋で炊きあげた朝ご飯のおいしさも格別で、小さな民宿ならではのもてなしである。京都御所や二条城も近い。一日二組限定。一人6.500円。昼間はカフェとしても利用出来る。
 京都市上京区油小路丸太町上がる米屋町。予約は075-211-8109まで。 交通…市バス『堀川丸太町』下車、徒歩3分。地下鉄『丸太町』下車、 徒歩12分。



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